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2020.05.11 / 建築と住まいの話

甲州民家の集落

今年のGWは「ステイホーム週間」ということで、外出自粛が求められました。春休みに続いて家族旅行に行くことができず、お金を使わなくて助かった反面、やはり交通機関、宿泊施設、観光施設の経済的打撃は計り知れないと感じます。
家族旅行を通じて、普段できていない家族サービスをしている私にとっても非常に痛いですし、ブログを書くためのネタ探しにも大きな影響を受けています。テレビ局が過去のドラマやバラエティ番組を再放送しているように、ブログの再掲載をしても良いでしょうか(笑)
でも「再掲載」の前に、取材しただけで未公開の旅先が幾つかあるので、先ずはそれを紹介します。

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2年ほど前、アースデザインオフィスの仕事で山梨県甲州市に行く機会がありました。その場所から非常に近い所に、まだ行ったことの無い重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)の「塩山下小田原上条(えんざんしもおだわらかみじょう)」があったため、見に行って来ました。
2005年の市町村合併までは塩山市だったので、頭に「塩山」の字が付いて地名が長くなっていますが、地元では「上条集落」と呼ばれています。2015年に選ばれたばかり(現在120ヶ所ある中で110番目に選定)の「若い重伝建地区」です。

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甲府盆地を車で走ると、特徴的な屋根形状の民家が多く見られます。ほとんどの家は屋根を金属で覆っていますが、元々は茅葺き切妻屋根で、正面中央部分に「突き上げ屋根」を設けた民家です。
この屋根形式は、甲府盆地東部に分布する切妻造りの養蚕農家で用いられ、江戸時代後期以降に養蚕が盛んになってから生み出されました。飛騨(岐阜県)の合掌造り、上州(群馬県)の切り落とし造り等と並んで、養蚕業によって誕生した独創的な屋根形式の一つです。

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上条集落の成立時期は明らかではありませんが、集落内の観音堂に安置される木造百観音像の史料等から、江戸時代中期頃と推定され、江戸時代は畑作を営み、明治時代に政府の振興策や技術の発展などが重なって養蚕業に転じたようです。
山麓の南斜面とそこから南側へ延びる丘陵地の、東西約320メートル、南北約860メートルの範囲が保存地区になっていて、旧道から別れた細い道(車は外側の広い道でアクセス)を進むと神社があり、さらに進むと観音堂が現われ、ほとんどの家は観音堂の北、山麓の南斜面に固まっています。

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大きな屋根裏空間を蚕室として利用するにあたり、採光と風通しを確保するため、各地で従来の平屋建て・茅葺き屋根(切妻または寄棟)を改良する必要がありました。甲州(山梨県)では、屋根前面の中央部分を切り上げて2階建てのような格好にした、「突き上げ屋根」が生まれたのです。
シャープな感じは無く、ちょっと頭が重い印象を受けますが、見れば見るほど愛らしい感じもしますね。前述したように、甲府盆地には今も比較的多く残っているのですが、これだけ「突き上げ屋根」がまとまって残っている集落は無く、貴重な風景と言えます。

最後に、昨年11月24日のブログを振り返ります。兵庫県たつの市龍野の町並みを訪れた時のことを、こう書きました。
「町並みを歩いている時に『祝・重要伝統的建造物群保存地区選定へ答申』という垂れ幕を幾つも目にしました。童謡の里・龍野は近い将来、重伝建地区「龍野」としても知られることになるでしょう」と。

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それから1ヶ月後の2019年12月23日。鹿児島県の「南さつま市加世田麓」とともに、「たつの市龍野」は新たな重伝建地区に加わりました。町並み保存に尽力された龍野の皆様、おめでとうございます。

岸 未希亜

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