初日は松山と宇和島の中間にある大洲市に泊まりました。大洲の町は、この地方一帯の水を集めて流れる肱川(ひじかわ)が二分していて、川の北側には新しい町が広がり、川の南側は肱南地区と呼ばれる古い城下町です。
今回も恒例の早朝町歩きに出掛けるのですが、ホテルと旧市街が離れていたので車を使い、「まちの駅」の駐車場に車を停めて大洲の町を歩きました。娘と再訪するので町の様子は後述するとして、朝食後に最初に向かったのは大洲城です。
大洲城は「現存天守」ではなく、2004年に木造で再建された復元天守です。大阪城や名古屋城など、鉄筋コンクリート造の復元天守は数多くありますが、木造復元天守は非常に珍しい存在です。
最近でこそ木造の中大規模建築が増えていますが、その多くは構造用集成材を使った建築です。大洲城は4階建ての木造建築を伝統工法で造っている点が大きく異なり、設計者目線で言えば「伝統工法で確認申請を通した構造設計」に敬意を表します。
大洲城は肱川の左岸にこんもり茂った小山の上に建つ平山城で、市民会館の横から石垣に沿って坂道を上ると本丸があります。高欄櫓と台所櫓(ともに重要文化財)と渡り廊下で繋がれた複合連結式天守で、高欄櫓は2階に勾欄廻縁を回した望楼型小天守として瀟洒な印象を与えています。
鎌倉時代末期に初期の城が築かれ、宇都宮氏が戦国時代まで8代続いた後、近世城郭としての体裁を整えたのは、藤堂高虎・脇坂安治が入城した文禄4年~慶長(1595~1615)の時代です。1617年に加藤貞泰が入城して明治維新までの250余年は加藤氏が支配しました。お殿様気分で四層の天守に上ると、肱川に囲われるような大洲の旧市街を眼下に望むことができます。
大洲の町(肱南地区)の中で最も有名な場所が「おはなはん通り」です。
1961年に始まったNHK連続テレビ小説(通称:朝ドラ)の第6回(1966年)が大洲市を舞台にした「おはなはん」でした。陸軍将校の夫と死別した「はな」が2人の子供を抱えて、明治・大正・昭和の時代を生き抜くという物語です。また、1991年のドラマ「東京ラブストーリー」のロケにも使われました。
道の南側は武家地、北側は町人町ということで、北側からは通りに出ることができなかったため、北側は土蔵が並ぶ風景になっています。武家地側に側溝があって清流が流れており、側溝に足を下ろしている観光客がいました。
私たちも「涼んでいってください」と声を掛けられ、靴下を脱いで足を冷やしました。この企画は初めての試みで、側溝を昨日掃除して綺麗にしたばかりとのこと。ほっとするひと時でした。
町の至る所に「NIPPONIA HOTEL」と書かれた暖簾や看板があります。
全国的に古い建物が取り壊されて町並みや歴史的資源が失われていくなか、大洲市では持続可能な「歴史的資源を活用した観光まちづくり」として、城下町に残る個人所有の歴史的建造物(町家)をリノベーションして、ホテルとしての価値を創出したのです。
この「NIPPONIA HOTEL 大洲城下町」の取り組みは、世界の持続可能な観光地2022年TOP100と2023年TOP100に2年連続で選ばれたとのこと。住居としての維持が難しい現実を受け止め、住民・行政・金融機関・事業者の連携で町の価値を高め、町並みが維持される新しい形なのだと思いました。
肱川を見下ろす崖の上に、茅葺屋根の数寄屋建築「臥龍院」と庭園、離れの茶室「不老庵」があり、臥龍山荘(がりゅうさんそう)として公開されています。
「臥龍院」は桂離宮・修学院離宮などを参考に造られた数寄屋建築で重要文化財です。霞月の間(かげつのま)、清吹の間(せいすいのま)、壱是の間(いっしのま)の意匠は見応えがあり、庭との一体感も見事です。自然の景観を巧みに取り入れた庭園も国の名勝に指定されています。
「不老庵」は川の上にせり出す形の「懸け造り」で、肱川の眺めを堪能できます。ドーム状の網代天井は川面の月光反射を狙った巧妙な仕掛けだそうで、浮遊感もあって非常に面白い建築だと思います。
早朝にも車を停めた「まちの駅・あさもや」は観光案内所、食事処、トイレ、物販コーナー、レンタサイクル等があり、大洲観光の拠点になる施設です。設計したのは私の師匠である建築家・吉田桂二。私が在職中の2002年竣工なので築22年になるのですが、初めて訪れることができました。
敷地外周に沿ったL型の平面構成で、コーナー部分は斜めに抜けていて町への導入部分になっています。土蔵の形をしているレストラン棟は、その奥に続く「おはなはん通り」を暗示しています。内部は斜め材を多用してトラスを組んでいますが、洋小屋とは違って木と木を組む伝統技術が駆使されています。そして木造複合架構と複雑な屋根構成にかけては桂二さんの右に出る人はいないので、そこら辺にある和風デザインの施設とは一線を画した外観になっています。見る人が見れば分かるはずです(笑)
大洲だけで長くなってしまったので、今回は「中編」ということで後編に続きます(つづく)
岸 未希亜