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2023.04.23 / よもやま話

父と娘の伊勢・近江巡り2

亀山市のホテルに泊まったのには訳があります。朝食前に一人で町歩きをするためです。ただし今回はホテルから目的地まで約7㎞もあったので、ホテルから車で往復しました。行き先は重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)の「関宿(せきじゅく)」です。

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関宿は東海道五十三次の47番目の宿場で、東海道の宿場町では唯一の重伝建地区です。東海道は現在の国道1号線と重なる所が多く、日本の大動脈として発展してきたため、どうしても新しく造り替えられてしまいました。神奈川県内だけでも、川崎‐神奈川-保土ヶ谷‐戸塚‐藤沢‐平塚‐大磯‐小田原‐箱根と9宿もありますが、宿場町の面影はほとんど感じられませんね。

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国道1号線の小田原宿付近

一方で鉄道(東海道線・東海道新幹線)や東名高速道路は、愛知県から岐阜県や米原(滋賀県)を経由して草津で東海道と合流します。そのため、尾張の「宮」から近江の「草津」の間(宿場で言うと「桑名~石部」)は大動脈から取り残された形となり、「関宿」は昔ながらの姿を濃厚にとどめている訳です。

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国道1号線を亀山から西へ走ると、右斜めに逸れて旧道があります。と言うよりも、この辺りでは交通量の多い国道1号線が旧東海道と並行しながらも完全に別れていて、旧道自体に面影が残っています。
関宿の入口から300mぐらい歩くと保存地区の東端にあたる東追分の鳥居が現れます。

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そこから道の両側にびっしりと古い家が並びます。重伝建地区の中には、その名に相応しくない家が点在している地区もあるのですが、関宿は町並みを乱す家が皆無。選定されたのが40年前の1984年なので改修・修景が進んでいることもあるでしょうし、道路が狭いこともあって、「古い町並み」を濃厚に感じられます。

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さらに関宿は、東追分から西追分までの間が全長約1.8kmもあるため、歩けども歩けども延々と町並みが続きます。木崎、中町、新所と3つの町に分かれていて、現在でも古い町屋が200軒余り残っていますが、最盛期は家の数500軒前後、旅篭の数も50軒前後ありました。それというのも、関宿の東追分は東海道と伊勢別街道の分岐点、西追分は東海道と大和・伊賀街道の分岐点で人の出入りが多かったためです。

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新所の入口付近にある地蔵院が現れた時、「ここが終点かな」と思いましたが、まだ全体の4分の3を歩いただけでした。この地蔵院は本堂・鐘楼・愛染堂の3棟が重要文化財に指定されている古刹で、東海道が整備された1601年当時は「関地蔵宿」として発足したほど、関宿の重要地点です。

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「関」の名は「鈴鹿の関」に由来しています。鈴鹿の関とは、愛発(あらち)の関、不破の関とともに、東方の攻撃から京の都を守る古代三関の一つでした。東海道が整備されるよりずっと昔の話です。

関宿を出た国道1号線は、東海道48番目の「坂の下宿」をバイパスし、難所の鈴鹿峠もトンネルであっさりパスして滋賀県に入ります。そのまま西進すると東海道49番目の「土山宿」が左手に現れるので、車を国道1号から旧東海道へ移して、旧道沿いにある公民館の駐車場に車を停めました。

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土山宿は重伝建地区ではありませんが、旧道沿いに伝統的な家屋が多く見受けられます。宿場町の長さは東西22間(約2.5km)もあり、江戸時代には旅篭の数が40を超えていたそうです。その跡地に石碑が立っているのも目を惹きますが、この町並みを代表する景観は旧本陣の辺りでしょう。

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土山宿を見た後は、東海道を離れて琵琶湖に向かって北上しました。
琵琶湖に沿ってJR東海道本線が走っていて、草津と米原の中間地点に能登川駅があり、近江鉄道には五箇荘駅があります。その近くに残っているのが、近江商人発祥の地と言われる重伝建地区の「五個荘金堂(ごかしょうこんどう)」です。

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近江商人とは、天秤棒を肩に日本全国を回り、一介の商人から大商人へと成長した人々で、江戸時代初期に八幡商人が発祥し、享保の頃に発祥した日野商人がいて、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍したのが五個荘商人でした。近隣に近江布の産地がある五個荘商人は、呉服類の販売を中心に業績を上げて、幾つもの豪商が誕生しました。

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五個荘村は農村地域ですが、水害が多く貧しい地域だったため、藩は農作業の余業を奨励し他国に出ることにも寛容でした。しかし商人たちは豪商へと出世しても郷里を離れることなく、この地に本宅を築いています。そのため五個荘は、近江商人のお屋敷と農村集落が一体となり、そこに社寺も加わって歴史的景観が造られました。町の中には美しい水路も流れていて、屋敷内に水路を引込む「川戸」も見られます。

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私は27年前、卒業旅行でこの五個荘に来たことがあります。当時はまだ重伝建地区ではなかったのですが、2年半後の1998年に選定され、整備が進みました。さらに2015年、「琵琶湖とその水辺景観―祈りと暮らしの水遺産」の一つとして日本遺産にも認定されています。

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その次に訪れたのは国宝・彦根城です。「本物のお城が見たい」と娘が言うので、伊勢・志摩と彦根を組み合わせるまさかの旅程になりました。彦根城の天守は現存する十二天守の一つで、国宝に指定されているのは彦根城を含めて5つだけ(他は姫路城、松本城、犬山城、松江城)です。

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彦根城は徳川の譜代大名である井伊家の居城で、金亀山という高さ50m余りの丘の上に築かれた平山城(ひらやまじろ)です。関ケ原合戦の戦功で、石田三成の居城である佐和山城を与えられた井伊直正は、その近くに新たな城を築くことを計画し、子・直継の代に20年の歳月をかけて完成させました。西に琵琶湖があり、北は松原内湖に接して港を構え、東は中山道と北国街道が交わる交通の要衝で、豊臣方を抑える戦略上の重要拠点でもありました。

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内堀と中堀の間の武家屋敷跡が駐車場になっているため、天守西側の大手門から中に入りました(電車で来る場合は、南側の表門から入ることになります)。内堀の中は南北に細長い縄張りで、麓から本丸にかけて数十メートルの高低差を一気に上るため急坂になっています。坂を上がった所に本丸の入口となる太鼓丸があり、高い石垣の上に木製の廊下橋が掛かっています。有事にはこの橋を壊して、敵方が本丸に入れないようにする役割がありました。

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天守に入るには30分待ちの行列がありましたが、3階建ての天守から琵琶湖を望む景色は見事でした。入城待ちの広場には彦根市のキャラクター「ひこにゃん」がいて、そちらにも人が群がっていました。

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彦根城も卒業旅行で訪れたのですが、27年前に来た時は天守を拝めませんでした。改修工事中で天守が仮設小屋にすっぽり覆われていたからです(苦笑)卒業旅行ブログには当時の気持ちが書いてあります→卒業旅行で巡る日本の町並み1
天守というのは、(天守が建つ)本丸から見るよりも、引いた場所から見た方が断然美しいのですが、彦根城の場合、それは北側にある玄宮園という池泉回遊式庭園からの景色です。ここは2度目にして初めて訪れましたが、反対側にある駐車場(武家屋敷跡)から見た天守とはまるで趣きが違います。茅葺屋根の数寄屋建築と森の樹々と天守、という取り合わせは他に類を見ません。

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城の本や雑誌で何度も見た光景を見つけて「ここだ」と場所を定め、娘にも教えてあげました(笑)

彦根にも2016年に選定された新しい重伝建地区があります。「河原町芹町」というかつての町人地で、彦根城を築城する際の河川の付け替えによって形成された城下町の地割りを残しています。

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今回は駆け足で見て回り、慌ただしく彦根を後にしました。

彦根を出て名神高速道路を東へ進み、大垣ICで下りて岐阜県内を揖斐川に沿ってひたすら南下。そうすると揖斐川、長良川、木曽川が集まる河口の風景が現れます。揖斐川と木曽川に挟まれた中洲(三重県桑名市)に「なばなの里」というフラワーパークがあります。2日間の旅もいよいよ最後の訪問地です。

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なばなの里は季節の花が咲き誇る花のテーマパークですが、夜のイルミネーションが有名です。娘が小学生の時にチラシのようなものを見たことがあり、以前から行きたいと言っていたので、今回の訪問も暗くなる時間帯に設定した訳です。

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17時頃に入園したので、まずは普通に園内を散策。園内には日本料理、中国料理、イタリアン等のレストラン、大浴場が点在しているのですが、それらの建物が良い感じに造られているため、ちょっとディズニーランドの様な雰囲気も感じられたのが意外でした。

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イルミネーション点灯は18時30分からですが、時間前から「光のトンネル」には人が集まります。

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そしていよいよ点灯。トンネルの長さが200mもあるので、その光景はなかなか綺麗でした。

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トンネルを出るとテーマイルミネーションエリアがあって、今年は「船」をテーマにした壮大なイルミネーションが展開されました。これもディズニーランドを彷彿とさせる見事なものでした。その横には「花ひろば」という約1万3000坪もある日本最大級の花畑が広がります。ここもライトアップされていました。

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他にも、園中央にある池での水上イルミネーションや、水辺の樹木へのライトアップなど、光の演出が凝らされていて、非常に見応えがありました。インスタ映えすること間違いなしです。

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宇治山田駅前で借りたレンタカーは桑名駅前で返却。目の前の桑名駅から電車に乗って、名古屋から新幹線で帰路につきました。今回は2日間だったこともあって、いつも以上に盛りだくさんの旅でした。

岸 未希亜

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