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2018.06.15 / 建築と住まいの話

庫裡の中の文化財

長野市で曹洞宗寺院の庫裡(くり)を建築中でしたが、この度、遂に建物が竣工しました。2017年3月に既存庫裡を解体し、4月から建築工事に着手したので、工期として1年以上かかったことになります。

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思い返すと、さらに長い年月が経過しています。初めてお寺の住職にお会いしたのは2015年3月で、3年余り前のことです。基本設計で何度かプランを作成して2015年7月に設計契約を結び、プラン修正と実施設計を本格的に再開したのが2015年12月でした。3月には施工者の滝澤工務店が積算を行い、その後に図面の修正や世話人会での説明などがあって、2016年7月に設計を完了しました。これも約2年前のことです。

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この日は、檀家さんや近所にお住まいの方々向けの内覧会ということで、のべ40~50人ぐらいの人が来られました。住職はもちろん、大工の滝澤さん、建具職人(組子細工の名工)の横田さんも皆さんと顔なじみなので、ほぼ私の出番はありませんでした(笑)

この建物最大の見せ場は、檀家さんの集会や法事に使うための3室の続き間です。設計も大工仕事もよくできたと思いますが、最終的には「建具」に全て持って行かれた感があります(笑)

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「座敷」から「中の間」越しに「取次」を見ると、一番奥に、玄関への出入口となる4枚の板戸があります。

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これは中央に組子障子を挟んだ板戸で、上下の板も秋田杉の無垢板です。精緻な組子細工に目を奪われるとともに、着色ではなく、樹種の違いによる自然な色合いの変化がが美しく、ため息が出ます。

その隣は中の間(10畳)です。

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ここに見える襖には、解体前の庫裡で使われていた襖から紙を剥がし、洗って綺麗にした墨書を再利用しています。先代の住職が書いたものですし、檀家さんにも馴染み深い襖が再現されました。部屋の隅にある細長い襖は戸袋のふたです。3室を一つにして使用する場合、間仕切り襖8枚を外してここに収納します。

そして一番奥に座敷(12.5畳)があります。

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中央に大きな床の間、左にも控えの床の間、右には床脇(違い棚・天袋など)が並ぶ立派な座敷です。格天井に変更したのも正解でした。住職は、あれを飾ろう、これを飾ろうと張り切っていました。

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襖を引けば、座敷と中の間は一体になります。漢詩の墨書を貼った襖が並び、長押の上には組子細工の欄間が入っていますが、この欄間もまた凄い。

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座敷から見る手前の2枚、中の間から見る奥の2枚はともに、一続きの絵になっています。千曲川の流れを軸に山々を表現し、この地から見える風景が組子細工で描かれているのです。見学者の目が欄間に注がれるのは自明の理ですよね(笑)

縁側に面した座敷北面と取次西面には腰付き障子が入っているのですが、ここにも工夫があります。写真を見てどんな工夫か分かりますか?

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横桟が斜め下を向いていますね。まさに埃が溜まらないための工夫で、これを「塵返し」と呼ぶそうです。「私もこれでやってほしい」と言いたくなりますが、横田さん曰く、組子細工よりこっちを見てほしいというぐらい、残念ながらこの「塵返し」を作れる職人は少ないとのこと。これはもはや文化財ですね。

敷地には欅の大木があり、建物に覆い被さらんばかりです。欅の幹が道路にはみ出していて、道が狭くなっているのですが、道路ができるより前からお寺があったことを物語っていますね。

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また、「ここで自分の葬式もやってもらう」という檀家さんの会話を耳にして、未来永劫、ずっと使われていく施設であることを再認識しました。滝澤さん、本当にお疲れ様でした。

岸 未希亜

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