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2013.06.19 / 建築と住まいの話

卒業旅行で巡る日本の町並み2

17年前の卒業旅行を再現する町並み歩きの第二弾です。
今日は2日目と3日目の行程をお送りします。

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初日の夜は大阪市内にある祖母の家に泊まりました。一昨年に96歳で亡くなった祖母は大の阪神ファンで、万葉集とスポーツを愛する優しいおばあちゃんでした。学生時代よりも、社会人になってからの関西出張の際によく泊めてもらったことを思い出します。この卒業旅行の時も、前半に2泊、最後に2泊という形で拠点にさせてもらいました。

2日目は、先ず近鉄に乗って大阪の「富田林(とんだばやし)」を訪れました。

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富田林は、戦国時代末期に一向宗の興正寺建立と同時に誕生した寺内町(じないまち)で、江戸時代に綿の栽培が盛んになると、木綿を中心とした物資の集積地として商業が活発になり、在郷町(ざいごうまち)として発展しました。在郷町というのは、城下町、門前町、宿場町などと違って、町の中心となる施設がない農村部で自然発生的にできた町のことで、養蚕、煙草など商品作物生産の発展に伴って発生する例が多いようです。同じように寺内町の面影を残し、在郷町へと発展した例が奈良県橿原市の今井で、富田林とともに重要伝統的建造物群保存地区に選定されています(富田林はこの旅の2年後に選定されました)。

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本瓦葺き・塗り屋造りの重厚な町家は今井と共通しますが、道幅が狭い今井に比べると富田林は開放的な印象を受けました。町家の合間に土蔵群も建ち並び、実に見応えのある町並みでした。

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次に訪れたのは漆器職人の町「黒江(くろえ)」です。

中世末期に近江系の木地師集団が黒江に移住し、木目の細かい紀州桧で椀を作ったのが始まりと言われています。和歌山県を代表する伝統産業の「紀州漆器(黒江塗ともいう)」は、輪島塗り(山中漆器)、会津塗り(会津漆器)と並ぶ三大漆器でもあります。

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駅から歩く街道沿いは交通量が多く忙しいのですが、やがて古い建物が少しずつ現われます。川端通りと呼ばれる表通りには主に漆器問屋が並び、裏通りに塗り師や絵師の住まいが集まる構成で、古い町並みが残るのは主に裏通りの方でした。特徴的なのは、建物が道路に並行ではなく、ノコギリ状にギザギザと並んでいる点です。日当たりをよくするためとか、川から荷を上げる場所を確保するためなど、諸説あるようですが、敷地を半公共空間として開放することで、狭い道路にもかかわらず圧迫感や暗さが感じられませんでした。

2日目(2/27)は以上の2ヶ所を巡り、大阪に戻ってもう1泊しました。

3日目、JR東海道線新快速に乗って姫路に行き、大荷物をコインロッカーに預けてからJR姫新線で「龍野(たつの)」に向かいました。兵庫県の瀬戸内海側には、洋館が並ぶ異国情緒の港町「神戸」や、瀬戸内海航路の宿場町として繁栄した「室津」もあるのですが、内陸の「龍野」を選んだのは、この機会でなければ訪れないだろうと考えてのことです。

sotsu_tatsuno2.jpg  伝統的な醸造法を守り続けているカネヰ醤油

「龍野」は明治維新までつづく城下町として発展した一方、醤油造りでも大いに繁栄しました。江戸時代に開発された「淡口しょうゆ」の産地として有名で、国内5大醤油メーカーの一つ「ヒガシマル醤油」の本拠地でもあります。本竜野駅から歩いて揖保川を渡ると、小ぢんまりとした旧市街が広がります。町並みとしてはそれほど残っていませんでしたが、堀のような狭い川沿いに醤油蔵や寺院の白壁・瓦屋根などが並ぶ景色は風情がありました。

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また城下町の名残をとどめる屋敷割の一角に、旧三木露風邸跡が残っています。ここ龍野は、童謡『赤とんぼ』の故郷としての方が有名かもしれません。

姫路に戻って、この旅で唯一の新幹線に乗り岡山へ。倉敷からバスに揺られて訪れた「矢掛(やかげ)」は、山陽道の宿場町であり、陸路・水路の交易の中継地として発展しました。

sotsu_yakage1.jpg  旧矢掛脇本陣・高草家
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小田川沿いを走るバス通りの北側に旧街道があり、約500mにわたって宿場町の面影を残していますが、大きな看板で屋根を隠していたり、改造されている家も多く見られ、町並みとしては台無しになっていました。

しかしこの宿場町にある本陣と脇本陣は、ともに国の重要文化財に指定されており、完全な形で残っているのが大きな見どころです。旧本陣・石井家は1990年に巨費を投じて修復工事が行われ、一般公開されています。脇本陣・高草家は現役の住まいとしても使用されているため、この時は公開日の水曜日(現在は土・日)に合わせて旅程を組みました。どちらも本瓦葺き・塗り屋造りの重厚感があり、風雨から壁を守るために貼られた四角い瓦がデザイン的にも効いていて、とても印象に残りました。

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sotsu_yakage4.jpg  旧矢掛本陣・石井家(上下2枚とも)

3日目(2/28)は以上の2ヶ所を巡り、JR伯備線で高梁に移動して泊まりました。
(つづく)

岸 未希亜

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