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2014.12.01 / 建築と住まいの話

遠藤新の住宅

先週、遠藤新(えんどうあらた)が設計した葉山の別荘を見に行ってきました。

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この加地邸は個人所有の住宅(別荘)のため、これまで一般に公開されることはありませんでしたが、所有者、地域、専門家が知恵を絞って継承の道筋を探すことになり、昨日まで(10月から11月の毎週末)特別公開されていました。

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加地邸は三井物産監査役だった加地利夫氏の別邸で、1928年(昭和3年)に完成しました。すでに現役で使われている訳ではないようなので、壁や床などの傷みは目立ちましたが、86年前に建てられた住宅とは思えない魅力が詰まっていました。残念ながら内部は写真撮影不可だったため、その魅力をお届けすることはできませんが、その魅力は、大正から昭和にかけて活躍した建築家・遠藤新の手から生まれたものです。

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建築に詳しい人を除いて、遠藤新についてご存知の方は少ないと思います。彼は東京帝国大学(現・東京大学)建築学科を卒業し、28歳の時にフランク・ロイド・ライトの建築設計事務所に勤めました。ライトが帝国ホテルの設計を引き受けて来日した時のことです。
建設費用がかかり過ぎるとしてライトが途中で解雇された後は、遠藤新を中心とする弟子たちが帝国ホテルを完成させました。当時の帝国ホテルの一部が、現在も明治村(愛知県)に保存されています。

他にも、自由学園明日館(東京都豊島区)や旧山邑邸(現・淀川製鋼所迎賓館:兵庫県芦屋市)は、ライトの基本設計を引き継いで遠藤新が完成に導いた建物です。どちらも日本で見られる数少ない「ライトの建築」として有名で、私も2件とも見に行ったことがあります。

フランク・ロイド・ライトの日本における一番弟子として知られる遠藤新は、その設計思想を学びよく理解していたため、独立後もライトのデザインや空間を自己のものとして設計を行います。
建築界が「モダニズム」へと傾く20世紀前半、鉄・ガラス・コンクリートの無機質な建築が主役になっていく時代に、「有機的な建築」を提唱するライトの建築は異質で、日本でライト風の建築を設計する遠藤新の評価は決して高くありませんでした。
しかし現在、造形や装飾の豊かさ、素材の豊かさを感じられるライトの建築は一定の評価を受けていますし、ライトの建築空間に通ずる遠藤新の建築にも、同様の魅力を感じます。

葉山の加地別邸を見て、藤沢市民会館敷地内に移築されている旧近藤別邸を思い出しました。こちらも遠藤新の設計で、1925年(大正14年)に辻堂東海岸に建てられた別荘です。所有者が変わり、一度は取り壊しが決まったのですが、保存運動の結果、1981年に現在の地に移築保存されました。

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入場無料で見学できるうえ、休館日も月曜日(休日の翌日)なので週末に気軽に足を運ぶことができます。今春からは邸内で喫茶店もオープンしているようです。
さらに今週末の12/6(土)午後には、「旧近藤邸 初冬の見学会」という企画もあり、参加者で建物点検・清掃・暖炉の火入れなどを行うそうです。
旧近藤邸のこと、遠藤新のこと、ライトのことに興味を持った方は、ぜひ行ってみてください。

岸 未希亜

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