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2012.10.31 / 建築と住まいの話

町並みを描く建築家

先週、今年で33回目を迎える息の長い個展に行ってきました。
誰もが知っている有名な画家の個展ではありません。
建築家・吉田桂二さんの個展です。

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吉田桂二さんは今年で82歳になりますが、まだまだ現役の建築家であり、私の師匠でもあります。長いこと一緒に仕事をしてきましたので、ここでも親しみを込めて「桂二さん」と呼ばせていただきます。
桂二さんは住宅や公共建築において素晴らしい建物を幾つも設計していますが、特に風土に根ざした木造建築の設計で高い評価を受けている建築家です。また絵の上手さにも定評があり、前述の通り個展を開くほどの腕前です。

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さて毎年この季節になると、前年の来場者には絵ハガキの案内状が届きます。そこには個展で披露される絵の1枚が印刷されています。
今年のテーマは「多芸成る古都~ウィーン~」でした。

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過去の案内状の一部を紹介します。
左上「中世の石と木で造られたウェールズと近郊の町(2010年)」
左下「イングランド・オックスフォード(2009年)」
右上「マルタを描く(2003年)」
右下「地中海の珠玉の町を描く~コルシカ・サルディーナ・シチリア・マルタ~」

特にここ数年、桂二さんは毎年ヨーロッパにスケッチ旅行に出ていますが、若い頃にも民家や町並みの本の取材でヨーロッパに足を運んでいました。

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これはその本の一つですが、主に地中海沿岸のトルコ、ギリシャ、イタリア、スペイン、モロッコ、チュニジアなどを旅しています。絵も楽しめますが、建築や民家に対する解説が分かりやすく、お勧めの1冊です。
ところで桂二さんは、海外での旅以上に日本じゅうを歩いて、民家や古い町並みのスケッチを描いています。

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この本は2000年に出版された本で後発の部類ですが、それ以前にも「町並み・家並み事典」「民家ウォッチング事典」「中山道民家の旅」「歴史の町並み事典」など、数多くの絵本を出しています。
自分が学生時代に桂二さんのことを知ったのも、住宅の作品集とともに、これらの絵本の存在でした。日本の古い民家や町並みを観察し、日本の風土性の中で培われてきたそれらの住まいを、現代の家づくりの手本としている姿勢に大きな共感を覚えました。

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さて日本の民家といっても、場所によって大きな違いが見られます。
左上「旧渋谷家(山形県鶴岡市)」山間の集落にあった茅葺き民家で、明治時代に養蚕が普及するようになって「かぶと造り」という特徴的な屋根が生まれました。
右上「堀内家(長野県塩尻市)」板葺き・切妻屋根・妻入りの「本棟造り」で信州を代表する民家形式です。屋根正面の頂点に「雀おどり」という棟飾りがあって意匠に凝っているのも、庄屋だけに許された造りだからです。
左下「河合家(奈良県橿原市)」一向宗の寺内町である「今井」にある商家で、本瓦葺きの立派な屋根、外壁と軒裏を漆喰塗りにした防火構造の「塗屋造り」が特徴です。
右下「田中家(徳島県石井町)」茅葺き寄棟屋根の四方に本瓦葺きの庇を回した「四方蓋造り」で、「藍作り」で栄えた大きな屋敷構えの真ん中に愛らしい姿で建っています。

日本の民家を語り出したら、ちょっと熱くなってしまいました(笑)

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この絵は、岡山県成羽町の「吹屋」と呼ばれる町並みです。
吹屋は銅山の町として栄え、幾度か衰退を繰り返した後に銅の廃石から酸化鉄を取り出してベンガラ(紅殻)をつくり、高品質の赤色顔料として上方で重用され、大いに繁栄しました。
自分も実際に見に行きましたが、過疎が進む山間に、倉敷のような立派な町並みがあって驚きました。寒冷地仕様の赤い石見瓦とベンガラで染まった赤い壁のある町並みは、日本らしからぬ華やかさも持っていて大好きな町並みの一つです。
この絵は現在、わが家の和室に飾られています。

岸 未希亜

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