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2016.02.17 / 建築と住まいの話

藤沢M邸 完成見学会の見どころ

今週末に見学会を開催する「藤沢市M邸」の見どころを紹介します。

元々ここにあった家は、1920(大正6)年に建てられた築100年近い古民家でした。建て主自身も幼少期から60年以上暮らしてきましたが、増築を重ねて歪な形になったり、とにかく冬が寒いということで、お母様が亡くなられたことを区切りに、建て替えを決断されました。

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ずっと以前に弊社社長の著書『神奈川の木の家』を読んだことがあるという建て主は、家を建て替えるなら「神奈川の木を使いたい」と考えていたそうです。そして「神奈川の木で家をつくる会」の存在を知り、会を主宰している当社を訪ねてくださいました。
現地を見るため4日後にご自宅を訪問すると、早くも設計を申し込んでいただき、私どもにも嬉しい驚きとなりました。

敷地は、西側に裏山が迫り、東側に川沿いの田園風景が広がる長閑な場所です。昔は川が氾濫することも多く、敷地の低いところが水没したそうなので、家の建っていた場所は道路よりも1m以上高く、道路から緩やかに登っていました。また、山を背にした道路側が正面になるため、家は東向きに建っていました。古民家はただでさえ陽が入らなくて薄暗いものですが、それに輪を掛けて暗かったそうです。

昔ながらの古民家で暮らしていたご夫妻は、「ハウスメーカーのような家は嫌だ」ということで、当社らしい木組みの真壁の家で計画しました。さらに2階建ての家に住んだことがないご夫婦にとって、建てるのはもちろん平屋の木の家です。

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雨戸には桧の戸袋を被せて柔らかい印象をつくりながら、屋根の軒を深く出し、妻面には腕木庇を造って窓や戸袋を保護しました。この陰影のある外観が日本の風土に合った形であり、田園から見上げる佇まいは、周辺環境に溶け込む姿になったと思います。

「他の家に住んだことがない」というご主人も、結婚してからずっとこの家で暮らしてきた奥様も、旧家のイメージが頭から離れません(笑)
「東向き」を「南向き」に直すことや、正面にあった玄関を側面に移すこと等の大改革がある一方、間取りはどうしても昔ながらの形を望まれました。

その一つが居間(リビング)独立させ、食事の間と台所が一体のダイニングキッチンにすることです。20年ぐらい前からは、LDKを連続させて空間を広く使うことや、家族の顔が見える空間づくりが一般的になってきたと思いますが、LとDKを完全に分ける事がかえって新鮮に感じました。

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ただし、北側にひっそりと置かれた古民家のDKとは違い、日当りが良く、裏山の緑も目に入る南西のいい場所に配置しています。ここに、家具屋が注文製作した桧のダイニングテーブルが置かれます。

また、リビングの北側には寝室があるため、建て主は初め、普通に廊下を望まれました。しかし風通しを阻害する「中廊下」は止めて、二重の建具を入れることで寝室とリビングとの間を開放したり、区画できるようにしました。

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こうすると、昼間は使わない寝室もリビングの一部として広々と感じられますし、家の中の温度差をなくすことで安心して暮らすことができます。右写真は、小さな仏間から見た「中廊下」の名残りです。

居間は勾配天井で空間が立体的に広がり、ロフトへと連続します。ロフトに昇る階段がこの空間のアクセントになっています。

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寝室との間仕切りには、旧家に使われていた大阪格子戸(小障子が外せるようになっていて冬以外は格子戸として使える建具)を再利用しました。これもアクセントになっていますが、杉や桧は年数が経てば濃くなってくるので、やがて馴染んで見えるはずです。

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テレビ台の横にある赤い柱は、旧家で使われていたケヤキの大黒柱です。大工が歪みを矯正しながら真っすぐな柱に加工し直してくれたので、新しい家に引き継ぐことができました。

このように、景色との調和、昔ながらの間取り、昔の家で使われていた材や建具の利用などから、この家を「旧家の記憶を留める平屋の家」と名付けました。実際に見ていただければ、この家の魅力を感じていただけると思います。

岸 未希亜

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