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2012.08.24 / 建築と住まいの話

多治見の家

昨年の夏に基本計画をスタートしてから約1年が経ち、
「多治見の家」が完成しました。

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物語は1年前に遡ります。岐阜県多治見市からやって来た若い家族は、曾祖父の代から大工を営み、父の代から工務店を業としているという早川工務店の、近い将来4代目になるご主人とその奥様、そして2人の子供たちでした。
早川工務店がエアサイクルグループに加盟している関係で当社のコンセプトハウスのことを知り、設計を依頼するために遠路、藤沢まで来てくださったのです。

この家は、住んでいる所を見ていただくモデルハウスの役割を持っています。
したがってご家族からの要望は控えめに、工務店の家づくりを示していくような内容を中心に、大きく3つの要望をいただきました。

その一つは大きさです。40~45坪の住宅が多いという土地柄を考慮し、4人家族(5人家族になることを想定)にとってはゆとりのある42坪弱の住宅として設計しました。

その二は住宅の中に美濃焼(陶器)を生かすこと。多治見市は土岐市と並んで美濃焼の中心地であるため、地域の特色を出すためにも、タイルや洗面器に美濃焼を使うことを考えました。

その三は和モダンのデザインです。同社がこれまで造ってきた家にも良さはありますが、もっと幅広い世代に受け入れられる住宅として、当社のコンセプトハウスのようなデザインを望まれました。

そして「後は岸さんにお任せします」という言葉が建築家魂をくすぐりました。
それは「好き勝手にやる」ということではなく、建て主の希望、敷地と周辺の情報、そして自らの美意識を基にして、その場所、その家族に最も相応しい住宅をつくりあげる作業です。
要素はできるだけ整理してシンプルに思考することが、いい住宅をつくる秘訣だと思います。

「建て主の希望」は、「住む人の生活」に置き替えると優先順位を誤りません。
早川さんにも、現在の生活や将来の家族像について雑談のような形で語ってもらい、間取りのヒントにしました。

「建て主の希望」以上に、「敷地と周辺の情報」が間取りや家の形を決定付ける要因になります。方位と敷地の形、大きさだけではなく、道路付け、隣家の状況、敷地から見える景色などが手掛かりになります。

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多治見の家は、周囲を山に囲まれた長閑な環境にあって、北に川、西に畑、東に林というように周囲に建物がなく、敷地の大きさも約85坪と広いため、日照、採光、通風は万全です。
それに加えて川向こうには美濃焼の窯元が集まる旧道があり、北側の窓からは、森の木々を背景にして古い家並みを見ることができます。北側に和室と月見台を設け、寝室や浴室には景色を眺められる窓を設けました。
逆に川向こうからも建物がよく見えることに加え、モデルハウスとして多くの人を迎えるため、「立ち姿の美しさ」はいつも以上に意識しました。

tajimi33.jpgリビングから和室、そしてダイニング・キッチンへと連続する空間の広がり。キッチンの壁にはグレーの美濃焼タイルを貼りました

tajimi34.jpg三方を囲われたリビングは落ち着きのある空間。間接照明の優しい光も効果的

tajimi35.jpg浴室から連続する壁・天井はヒノキ。洗面所の腰壁はモザイクタイルを貼りました

tajimi36.jpgトイレの手洗器、2階ホールの洗面コーナーにも美濃焼の器を設置

tajimi37.jpg木組みのデザインと開放的な空間は、日本の家のかたち。チョークが使える黒板の壁に子供たちが落書きをしています

tajimi38.jpg床、天井には杉板、壁は火山灰シラスを成分とした塗り壁で清々しい空気感の子供部屋。小屋組みを利用した間接照明を設け、天井に照明器具を付けていません

tajimi39.jpg2方向に連続するコーナー窓が景色を切り取ります


暮らし始めたばかりのご家族に感想をお聞きすると、エアサイクルの効果を絶賛しました。それもそのはず、多治見市はかつて熊谷市と並んで日本の最高気温40.9℃を記録し、この夏も日本最高気温を何度も記録している「日本一暑い町」なのです。設計の良しあしを聞くのは、もう少し先まで待ってみましょう(笑)

岸 未希亜

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