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2012.06.09 / よもやま話

安曇野ちひろ美術館

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「いわさきちひろ」の描く子どもを見ると、心が温かくなる気がします。

ご存知の方も多いと思いますが、「いわさきちひろ」は挿絵や雑誌の表紙で童画家として知られるようになり、生涯のテーマとして子供を描き続けた日本を代表する絵本画家です。
その絵に対して初期の頃は、リアルさに欠ける、可愛らしすぎるといった批判があったそうですが、子供のもっている愛らしさが巧みに表現されているその画風が私は好きです。

この度、長野県北安曇郡にある「安曇野ちひろ美術館」に行って来ました。

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北アルプスを背景にした安曇野の風景に溶け込むように、ちひろ美術館は建っています。静けさを突き破るような騒々しさも、自己の存在を主張するような奇抜さもなく、風景の一部のような建築です。

設計者である建築家の内藤廣さんは、最初に敷地を訪れた時に「世の中の喧騒から隔絶されたかのようなこの風景を切り裂いてよいものか」と思ったそうです。
そして建物が一番低く見えて、風景に対する座りがよいという理由から、切妻屋根が連続するシンプルな形態を選択しています。

同時期(15年余り前)に計画された内藤さんの建築には、この切妻の連続屋根が多く見られたので、当時の自分はその飾り気のなさに好感を覚えながらも、同じ形を繰り返している印象も抱いたものです。

しかし内藤さんは「建築をつくるときに、建物形態や素材を自分の内面からではなく、気候や風景などの外的要因から導いている」ということを何かの本で読み、合点がいったとともに素晴らしい考えだと思いました。

これは住宅をつくる上でもたいへん重要なことです。地域に合った素材を使って、地域の気候に合わせた家をつくることで、家並みはその地に相応しい風景を形成することになる訳です。

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建物は壁が鉄筋コンクリート造、屋根が木造という混構造になっていて、屋根を構成する登り梁が細かいピッチでリズムよく室内に現われています。またコンクリートの壁には珪藻土が塗られ、床には無垢のフローリングが張られているので、古い木造校舎のような温もりが感じられます。

展示されている「いわさきちひろ」の絵や、図書室に並ぶ絵本といった「もの」たちと建物との相性もよく、中庭やテラス、渡り廊下といった建物の内外をつなぐ部分もいい雰囲気になっていました。

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東京都練馬区にある「ちひろ美術館・東京(旧・いわさきちひろ絵本美術館)」の開館20周年を記念して建てられた安曇野ちひろ美術館は、今年開館15周年を迎えます。

この夏、風景の一部と化している建物を探しに、
安曇野まで足を延ばしてみてください。

岸 未希亜

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