自邸の紹介
11.12.28
2011年も残すところ僅かとなってしまいました。
今年も多くのご縁があり、東京・神奈川以外の地域も含めると
実に17棟もの住宅を設計する機会をいただきました。
また昨年から今年に設計をして、この一年に完成した住宅が12棟ありました。
どの家も自分の子どものような感じがして思い入れがありますが、
今年はやはり自邸を建てたことが大きな出来事でした。
物語のスタートは月並みですが「土地選び」でした。
「建築条件なし」という時点で物件が限られ、あっても旗竿敷地や小さく開発された敷地が多く、
どれも決め手に欠ける状況でした。

そんな折、建売住宅の会社が「条件なし」で土地だけを分譲するという好機に巡りあい、
早速現地に足を運んで敷地の周りを観察しました。
その夜、2宅地に候補を絞ってプランニングを始め、
明け方に納得のいく間取りに辿りつきました。
つまり、「どちらの敷地を買うか」という判断を一晩で決したことになります。
最終プランは、この時に考えた間取りとほとんど変わりません。
それは「どんな家にしたいか」「どんな暮らしをするか」という芯の部分を大切にして、
間取りの細部に遊び(余裕)を残しながら設計しているためです。
この事は、皆さまの住まいを設計する時にも当てはまります。
「大切なこと」を叶えるために、細部を少し曖昧にしておくのです。
しかも設計する私だけではなく、提案を受ける建て主も細部に捉われないことが重要なのです。
細部に捉われ過ぎて変更を重ねていくと、「大切なこと」が失われてしまう恐れがあります。
多くの場合、「ファーストプランが最もいい家になる」と私は思っています。(笑)

さて、自邸で「大切にしたこと」は5つありました。
1.友達と大勢で食卓を囲む機会があるので、伸長する大きなテーブルを主役にしたLDにすること
2.子供部屋は小さくして、できるだけ親子の関わりをもつようにすること
3.妻の母が年に何度か滞在するので、畳の部屋を用意すること
4.家の大きさが限られているので、デッキやバルコニーまで拡張するような空間にすること
5.夏を旨とする風通しのよい間取りにすること、冬のために蓄熱暖房機を入れること
後は敷地の大きさや形、敷地から見える景色などによって、柔軟に間取りを決めていきます。
実際に敷地に立った時に得られる周囲の情報は大切で、これが施主の要望に勝ることも多々あります。
自邸では、狭いながらも南北にやや長い敷地形状、東と南の2面接道で日当たりがよいこと、
西側にファミリーレストランの駐車場があることが特徴でした。
重要視したのは、リビング・ダイニングが日照・採光に恵まれ、小さな庭とデッキに連続すること。
そして駐車場からの視線や音を遮断することでした。
そこで、建物は駐車場に背を向ける形のL字型とし、
南向きで奥まった一番いい場所にリビング・ダイニングを配置しました。
また、北東角を玄関にするのが一つのセオリーでしたが、
リビングの居心地を優先して突き出した南側に玄関と収納室を設けました。

玄関からリビングまでの距離が長くなると廊下ができてしまうのが常ですが、
小さな家にその余裕はありません。
そこで玄関とリビング・ダイニングの中間に和室+縁側を設けました。
和室の襖を2方向に引き込むと廊下らしい空間は全くなくなり、
リビングと連続した大空間が現われます。
その狙いを強調するために、玄関、縁側、和室、リビングの天井を
同じ高さ、同じ素材(サツマ葦)で統一しています。
天井の高さを揃えて連続性をつくる一方で、リビング・ダイニングの床を一段下げています。
これは踏み込んだ時の開放感を高める工夫です。

さらにリビングの南側をハキダシの全開サッシにして、
リビングの床がデッキまで延びていくような連続性をつくりました。
人が集まってデッキでBBQをする時の便利さもありますが、
室内と屋外との領域が曖昧な日本的な空間構成を意識してのデザインです。

キッチンはリビング・ダイニングと一体感のある対面型ですが、
L型キッチンと食器棚、家電棚、食品庫が上手にレイアウトされた使いやすさも魅力です。
実際に使っている妻も満足しているようなので、間違いありません。(笑)

総2階の小さな家なので、洗面所と浴室は2階に設けました。
寝室にも子供室にも近く、就寝までの流れを考えると理に適った配置になったと思います。
浴室はハーフユニットを採用し、壁にモザイクタイルを貼った暖かみのある空間にしました。
コンセプトハウスを見て桧板張りを望まれるお施主様は増えていますが、
タイル貼りにしたのは実験的な要素を含んでいます。
トイレを洗面所内に設けたのも特徴です。
狙いは窓を最小限にして鏡や壁面収納に充てること、
ゆとりのある洗面台をつくることにありましたが、
住んでみると子供2人を同時に風呂に入れる場合にとても便利でした。
横に長いお皿のような洗面ボウルや、美しいボーダータイルの壁が
「非日常」を日常に持ち込んだような豊かさを生んでいます。

また、玄関内にある洗面台が訪れる人を驚かせています。
「手洗い・うがい」を徹底しているわが家にとって、
洗面所が2階にあるのは都合が悪く、
1階のトイレにも広い洗面台が入れられませんでした。
そこで中途半端な所に洗面コーナーをつくるより、
見られても恥ずかしくない洗面台を玄関に設置することを選びました。
柿渋和紙を貼った床の間のような壁と相対し、
面白い空間が生まれています。
最後は子供のスペースについて。
欧米と日本では子供部屋の考え方が違うように、
その家庭ごとの考え方(教育方針)によってもつくり方が違ってきます。
わが家では夫婦間、親子間のコミュニケーションを大切にしたいので、
リビングで遊んだり、話をしたり、勉強したりしてほしいと考えました。
だから子供部屋は2人で7.5帖の小じんまりとした空間にしてあり、
ベッドと収納でいっぱいになります。
今はまだ3歳と7歳なので全てがリビングで事足りますが、
大きくなって少し集中したい場面では、子供部屋の前にある共用スペースが活躍します。

この写真ではまだ吹抜けになっていますが、ここに最近、間隔を空けて根太を並べたスノコ床を張りました。
1階のリビングに格子状の光を落とし、2階の気配が伝わり会話もできます。
見守られているという安心感の下で、
好きなことに取り組んでほしいというのが親の願いです。
このように、自邸では生活のシーンが生き生きと描かれています。生活に則した動線計画はもちろん、
機能的であると同時に心地よく感じられる空間があったり、
室内を移動する時のわくわく感があったりして、
自分自身も改めて間取りの大切さを認識した思いです。
そして、それらの心地よさ、美しさをつくるために
デザインが重要な役割を果たします。

自邸の場合、凝りに凝ったという所はありませんが、
ちょっとした「気づき」を大切にして形にしたことで、
さり気なくデザインされたバランスのよい空間になったと感じています。
外観はかなり個性的ですが、これは建築家のわがままではなく、
施主である妻の意向もしっかり反映しての選択です。(笑)
焼き杉板を竪張りした黒い壁をベースに、
一面だけは横張りの杉板を赤茶色に塗装してアクセントにしました。
同じ赤茶色の横格子がポーチ、デッキ、バルコニーを包み込み、
外壁の一部のようなまとまりを見せています。
この家は「建築家の自邸」という特殊な側面はありますが、
神奈川エコハウスが設計事務所(アースデザインオフィス)と
コラボレーション(共同)した住宅の一例でもあります。
来年、このようなコラボを望む建て主が現われることを、楽しみにしています。
岸 未希亜