ブログ

2015.05.31 / 建築と住まいの話

露地を景色にする坪庭

昨年の4月にお引渡しをした鎌倉の家についてのお話です。隣家の影響を受けやすい東西に細長い敷地だったので、採光・通風を得るために、中庭を囲んで複雑な平面形状にした住宅でした。

tuboniwa1.jpg

玄関までのアプローチや植栽が、家の雰囲気と見事に調和しているため、3倍くらい家がよく見えます(笑)

外構は引越し直後に完成したのですが、「どのような中庭にするか」を建て主が大いに迷われて、住みながら考えることになったため、中庭の工事はお預けとなっていました。
年が明けてから坪庭が完成したということを聞き、3月に一度訪問しました。作庭したのは、コンセプトハウスの庭をはじめ、多くのお客様の庭を手掛けている藤木さんです。

tuboniwa2.jpg

奥様が茶道を嗜まれており、茶室としての使用を考慮した和室があるため、中庭は茶室における「露地」の役割が与えられています。限られた広さのため、本格的な露地のようにはいきませんが、この坪庭は茶室に向かうための苑路(えんじ)を中心に計画されています。

tuboniwa3.jpg

苑路には、飛石(とびいし)や延段(のべだん=石畳)が配されていますが、その組み合わせが一つの景色になっていて、見る者の目を楽しませます。
苑路の途中にあるのが蹲踞(つくばい)と呼ばれる水鉢で、露地の設備の中で最も重要なものです。蹲踞には、穴を開けた自然石が用いられることもありますが、侘びの表現として、石灯篭(いしどうろう)の台座や石臼などが積極的に転用(廃品利用)されたりします。この蹲踞もどこかで拾って来たのかと藤木さんに尋ねると、あちこち探して買って来たものだと言っていました(笑)

一年点検で4月に再訪した後、雑誌の取材で5月にも訪問したのですが、新緑の季節となったため、3月とは違った景色が見られました。

tuboniwa4.jpg

植栽は落葉樹が中心なので、葉が芽吹き、花を咲かせ、青々と茂り、木によっては紅葉し、そして落葉します。つまり庭の木々から四季の変化が感じられるのです。また、写真を比べるとよく分かりますが、晴れ、雨、曇りといった天気の違いも景色に影響を及ぼします。

tuboniwa5.jpg

リビング・ダイニングや和室がこの坪庭を取り囲んでいるため、家の中にいても季節感があり、昨夏の暮らしぶりを伺うと、エアコンは必要なかったとのこと。風通しの良さも折り紙つきです。

この日は撮影のために、風炉釜(ふろがま)、茶道具、風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)などを準備していただきました。

tuboniwa6.jpg

和室には、お点前のために炉が切ってあるのですが、5月から11月は炉を閉めて風炉(ふろ)を使います。これは「寒い季節にはお客様に炭を近付け、暖かい季節にはお客様から炭を遠ざける」という、もてなしの心遣いだとのこと。
きめ細やかな日本人の対応が外国人に喜ばれる昨今ですが、私たち日本人自身も、改めて先人から学ぶことがありそうです。

岸 未希亜

Category
お知らせ
建築と住まいの話
よもやま話
ロコハウス
書籍・メディア掲載
Archeives